駐輪場問題②~二つの土地取引の比較と評価における問題点等


吉祥寺駅駐輪場売却問題の第一弾として、『二つの取引の概要と主な経緯』についてお知らせいたしましたが、第2弾として『二つの土地評価の比較と評価の問題点等』について解説したいと思います。

詳細は以下でお知らせしますが、主な問題は次の通りです。
・企業Xに売却した駐輪場を安く評価、企業Xから購入した土地を高く評価
・複数でなく1者鑑定
・財産価格審議会で駐輪場の評価について議論されなかった
・不動産鑑定士が評価した内容について裏付けを確認する資料を入手していない

 *専門的な話もあり、わかりにくい点もありますが、ご容赦ください。


 武蔵野市が企業Xから取得したA土地と、武蔵野市が企業Xへ売却したB土地の二つの土地について比較した下記の図表1をご覧ください。

■図表1:A土地とB土地の土地比較(出典:著者作成)

1.二つの土地の違い~”資産価値”が高いのはどっち?~

 上の表にある通り、駐輪場であったB土地
駅から徒歩1分で、容積率が600%の商業地域
武蔵野市が購入したA土地
駅から徒歩3分で容積率300%の近隣商業地域
です。

 どちらの土地の方が、資産価値が高いのでしょうか?

 通常、駅に近く、容積率の大きな土地の方が資産価値が高いと考えられます。

 実際に、B土地を購入した企業Xは、すでに購入していたC土地との一体地において、12階建てのビルの建設計画を公表しています。一方、A土地に武蔵野市が建設する駐輪場は3階建て(屋上に駐輪スペースにも設置)になる予定です。

 このことからも、A土地よりもB土地の方がはるかに収益性・利用価値が高く、資産価値が高いと考えられます。

■図表2:吉祥寺駅周辺地図(出典:ゼンリン地図をもとに著者作成)


2.二つの土地の評価~「路線価」と「正常価格」を比較すると?~

 次に、二つの土地評価についてみてみると、A土地の「路線価」(*1)は65万円/㎡、市が委託した不動産鑑定士(以下、鑑定人)が評価した「正常価格」(*2)は139万円/㎡(路線価の2.14倍)とされています。

(*1)相続税・贈与税の課税のため街路に付設された価格です。毎年、国税庁が定めます。地価公示価格の8割を目途としています。

(*2)正常価格とは、不動産価格の種類の1つであり、市場価値を表示する適正な評価とされています。上記でお知らせした正常価格は、市が委託した鑑定人の評価です。

 B土地については、A土地の「路線価」は100万円/㎡、「正常価格」は159万円/㎡(路線価の1.59倍)とされました。

 ここで強い違和感が生まれます。それは、路線価と正常価格の倍率をみると、希少性がある駐輪場であったB土地(1.59倍)よりも、A土地の評価の方が高い評価(2.14倍)をされていることです。

 土地の希少性がある場合はその限りではありませんが、通常、「正常価格」は、「路線価」の1.5倍程度と言われています。この点から、明らかにA土地は「高く評価」されていると考えられます。一方、希少性のあるB土地はA土地と比較して「低く評価」されていると考えられます。

 不動産関係者の方からは、正常価格が路線価の2倍の値が付く可能性があるのは駐輪場のB土地の方だというご意見を耳にします。

 また、A土地とB土地の価格比を「路線価」と「正常価格」で比較してみると、路線価についてB土地はA土地の1.53倍ですが、正常価格になると1.14倍となり、二つ土地の価格比は縮小しています。

■図表1:A土地とB土地の土地比較(出典:著者作成)*再掲


3.土地評価をめぐる問題点その1~1者鑑定ではなく、複数の不動産鑑定士の評価が妥当だった

 隣地所有者に市有地を売る場合、極めて稀な取引である「限定価格」という評価を行うことになります。「限定価格」とは隣地の土地を併合するような場合に、一般の市場とは異なる価格が付く状態にあることを言います。いわゆる「隣地三倍」という言葉に表現されるケースです。

 *こちらのリンク先にて、限定価格の説明がされています。ご参考までに。

 「限定価格」の評価の場合、通常、「正常価格」の評価よりも複雑な過程を経て評価されますが、このような複雑な評価が行われる取引に当たっては、「複数の不動産鑑定士」による鑑定が妥当だというのが、私がこれまでお話をさせていただいた不動産鑑定士や弁護士に共通した見解です。

 今回の土地評価に問題が生じた理由の1つには、複数の不動産鑑定士が鑑定したものではなく、1者鑑定によるものであったことにあります。実際に、財産価格審議会で良識ある委員からは、「1者鑑定はある程度その人の恣意的な部分があるため、今後もう1者鑑定を取り、相互に検討した方がよいと思う」と指摘されています。

 複数の不動産鑑定士による評価が行われていれば、このような評価の正当性について問われる可能性は大きく下がっていたものと考えられます。

 なお、1者鑑定とした理由について、市は「東京都が1者鑑定だから」と説明しています。しかし、私が東京都に問い合わせたところ、東京都には不動産鑑定士の資格を持つ都職員がいて、評価の正当性について確認しているからだという回答がありました。一方、武蔵野市には、不動産鑑定士の資格を持っている職員はいないことが確認されています。同じ1者鑑定でも、武蔵野市が東京都と同じように評価の正当性を確認したということにはなりません。

 また、この鑑定人は、この5年間、武蔵野市が委託した不動産鑑定に当たって、金額においても件数においても最も市と取引のあった事業者であることが確認されています。このことについて、公正性に欠ける評価が行われた可能性があるのではないかと、疑問に思う声も多く上がっています。


4.土地評価をめぐる問題点その2~全く議論されなかった駐輪場売却と財産価格審議会~

 令和3年6月28日、財産価格審議会(以下、審議会)が開催され、議案第1号として「土地の買収価格について」(A土地)、議案第2号として「土地の売却価格について」(B土地)が議論されたことになっています。

 しかしながら、この審議会の議事要旨を確認すると、売却した駐輪場であるB土地について全く議論されなかったことが確認できます。購入したA土地については多少議論されているものの、複雑で稀な評価で売却したB土地について、委員が議論しないということはどういうことなのでしょうか。極めて不可解です

 このことからは、審議会は機能していないのではないかという強い問題意識を持たざるを得ません。

 *議事要旨については、こちらのリンク先からご覧いただけます

 また、この審議会は9名中7名の委員が出席しましたが、その中に市の関係者が3名もおり、当日は会長を除くと有識者が3名市関係者が3名でした。そのような環境では、有識者の方々が積極的に発言することは難しいのではないかと考えられます。

 今後、審議会委員の構成については、市民の財産が公正公平な評価が行われるように、市の関係者を減らして、有識者を増やすべきではないでしょうか?

 余談ですが、武蔵野市の各種委員会では、市の関係者が半数近くを占めていることが散見されます。市の関係者の割合を減らし、専門家あるいは市民ができるだけ多く参加するようにして、活発な議論を重ねる必要があると思います。


5.土地評価をめぐる問題点その3~裏付けを確認できる資料を入手していない武蔵野市~

 さらなる問題として挙げられるのは、鑑定人が行った土地評価について、「裏付けを確認する資料」を市は入手していないことです。後述しますが、審議会の会長からも、「裏付けを確認」するように求められています。

 具体的には、土地評価に当たり、鑑定人は、図表3にある「第2分団用地」と「A土地」が一体化することにより、不整形であるにもかかわらず間口が広がることを理由にプラス4%増価(以下図表3の①)するということがありました。この点について、審議会において会長は、プラス4%とする裏付けを確認するように求めていることが議事要旨で確認されました。

 そこで、私の方から市に対して、この裏付けを確認する資料を情報開示請求したところ、その資料は「不存在」ということで開示されませんでした。ある専門家は、その資料はない可能性が高いと言っておられました。

 また、同様に、B土地について鑑定人は、奥行長大だからということでマイナス5%減価(以下図表3の②)、道路形態が悪いことでマイナス10%減価(以下図表3の③)という評価をしていることから、この裏付けを確認するための資料についても情報開示請求しました。市からの回答は、それらの資料も「不存在でした。

 武蔵野市は、市の財産を「少しでも高く売るように努める」必要があるはずです。しかしながら、購入する土地は高く評価され、売却する土地は低く評価されています。加えて、裏付ける資料も入手していなく、また、審議会でも駐輪場売却についての議論はされていません

 武蔵野市は、市の財産を「少しでも高く売るように努めた」といえるのでしょうか?市民の財産、税金について誠実に向き合っているのか、疑問に思わざるを得ません。不合理、不可解、不自然な土地評価が行われたのです

 以上から、武蔵野市は、本来入手しなければならない資料を入手せずに、十分な審議会でも議論されることなく『不当に高く』評価された土地を購入して、『不当に安く』評価された土地を売却したと判断されます。

 また、地方自治法で定められている最小経費最大効果の観点から、市の財産を高く売るための努力をする必要があったにもかかわらず、武蔵野市はその努力を怠っています


■図表3:鑑定人によるA土地とB土地の土地評価(出典:著者作成)

 詳細な損害額の算出については別途お知らせしますが、まずは土地評価に当たり、以上のような問題があったことをご報告させていただきます。