武蔵野市の将来人口推計における10の疑問点:その②~武蔵野市の人口推計の推計方法と問題点


 令和4年9月7日の総務委員会において、武蔵野市の将来人口推計(以下「人口推計」)の速報版が公表されました。

 その人口推計は、現在14.8万人の《武蔵野市の人口》が右肩上がりに増加して、2052年には16.1万人(現在より+1.3万人増)になると推計しています。

■図表1:日本と武蔵野市の将来人口推計(筆者作成)

 この件については、第一弾として『武蔵野市の将来人口推計における10の疑問点:その①~人口推計の重要性とその特徴』(ご覧いただく場合は←をクリックください)にて、将来人口推計の重要性や特徴について、また、将来人口推計に関する10の疑問のうち、4つの疑問と合わせてお知らせしました。

 今回は、第二弾として、
 ・武蔵野市の人口推計方法と人口増加要因
 ・武蔵野市の人口推計の問題点
について、残りの6つの疑問と合わせて、下記にてお知らせいたします。


1.武蔵野市の将来人口推計はどのような方法で行われているのか?

(1)コーホート式による推定~直近5年間の傾向が30年間続く前提で推計される

  以下の図表2は、令和4年9月に武蔵野市が公表した速報版の将来人口推計のグラフですが、武蔵野市が用いている将来人口推計方法はコーホート式と言われるものです。

 特徴は、出生、死亡、移動(転出入)などについて直近5年間(趨勢期間)の傾向が推定する期間(30年間)にわたって継続するという前提で推計されることにあります。

 この「コーホート式」に従って、武蔵野市は、2052年に人口が現在よりも1.3万人増加して16.1万人になると推計したと速報ベースで公表したのです…

~疑問点その5:出生、死亡、移動(転出入)の直近5年間の傾向が、今後30年間、継続するのでしょうか?~

■図表2:将来人口

(2)人口増加(変動)の要因~毎年、市内人口の8%が転入者。転入者の多さが人口増加に大きな影響を与える

 図表3は、武蔵野市の人口動態の推移です。人口の増減については、
出生数から亡くなった人の数を引いた「自然増減」
転入した人口数から転出した人口数を引いた「社会増減」
に分類されることがありますが、図表2からは、「自然増減」よりも「社会増減」の方が市内の人口数に大きな影響を与えることが確認できます。

 また、社会増減について、武蔵野市では毎年、人口の一部は
 ・8%超の転入者
 ・8%弱の転出者
で構成されていることが確認されますが、市内の人口増加の最大の要因は、
 ・転入者数が多いことから転入出者数(社会増減)が多くなったこと
が図表2からわかります。

■図表3:人口動態の推移(出所:武蔵野市)

(3)純移動率を用いて推計するのは適正といえるのか?

 図表4は、武蔵野市が公表した年齢別・性別別の「純移動率」(*)ですが、この図表からは、
18歳から20代後半の人口の流入超という傾向
子育て世代のファミリー層が引っ越してきた傾向
が確認されます。

 (*)「純移動率」とは、転入した人口数から転出した人口数を引いたものを武蔵野市の人口で割ったものです。

■図表4:年齢別性別別の純移動率(出所:武蔵野市)

 ②のファミリー層の引っ越しは、低金利下、住宅ローン減税などによって子育て世代が新しく建築されたマンションに引っ越してきたことによるとされています。

 この「純移動率」という指標を用いて将来人口推計を推計するのは、適正と言えるのでしょうか?後述しますが、私は、武蔵野市のような移動(転出入)が人口に大きな影響を与える地方自治体が、上記の「純移動率」を用いて「人口推計」を算出することは不正確な結果をもたらすと考えています。

  ~疑問点その6:この先30年間、18歳から20代後半やファミリー層がこれまでの5年間と同じ水準で、武蔵野市に継続的に引っ越してくるのでしょうか?~


2.武蔵野市の将来人口推計の問題点①~織り込まれていない経済前提等

 上述したように、2017年から5年間の傾向が30年間続くというこの推計方法(「コーホート式」)では出生、死亡、移動(転出入)のデータが推計するために用いられます。一方、経済指標などは用いられていません

 このことを言い換えると、今回の速報版(令和4年9月7日公表)では、2017年初から2021年末までの5年間の経済状況等が2052年まで継続することになります。

 武蔵野市の将来人口推計についてコンサルティングを担当しているのは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(以下、MUFJコンサル)です。

(1)住宅着工件数の中長期予想について~2040年には現在より40%減少する見通し

 しかし、このMUFJコンサルは中長期経済見通しを公表していて、図表5の通り、首都圏の住宅着工の見通しは現在の33万戸程度の水準から、2040年には▲40%減少して18万戸程度になると予想しています。

 住宅着工件数が減少すれば、武蔵野市にこれまで通り引っ越してくる転入者数も減少すると考えられます。

~疑問点その7:少子高齢化が進む中では、この見通しの通り、武蔵野市においても住宅着工件数は減少すると予想されます。転入者も減少するのではないでしょうか~

■図表5:首都圏の住宅着工の見通し(出所:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

(2)長期金利の中長期予想について~2030年に0.7%まで上昇する見通し

 また、MUFJコンサルは「2017年からの5年間は0%近辺にあった長期金利は、今後上昇に転じて、2030年には0.7%になる」と予想しています(図表6)。

 長期金利は上昇する見通しであるにもかかわらず、武蔵野市の「人口推計」においては、2017年から5年間の傾向である0%近辺で推移した長期金利の水準が、2052年まで継続するという前提に立っています。

 金利が上昇したら、金利負担が増加することから住宅ローンを借りて住宅を購入する人は減少すると考えられます。

~疑問点その8:金利が上昇したら、直近5年間と比べて住宅を購入する人は減少するのではないでしょうか?~

■図表6:長期金利見通し(出所:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

  

 上述した通り、武蔵野市の人口は現在14.8万人ですが、そのうちの8%超が転入、約8%転出という状況です。

 移動(転出入)が人口変動に大きな影響を与える武蔵野市においては、このような経済前提の見通しを織り込まないと、正確な「人口推計」を推計できないと考えられます。

~疑問点その9:現在の経済前提が30年間続くという前提で人口を推定してよいのでしょうか?~


3.武蔵野市の人口推計の問題点②~人口の移転率の母数が武蔵野市の人口では不正確な人口推計となってしまう

 武蔵野市の「人口推計」の算出におけるもう一つの問題は、日本全体の人口減少が織り込まれていないことです。日本全体の人口が減少していることを織り込まずに、武蔵野市の人口、出生数、死亡者数、転出入者数で推計値を算出しており、その結果として武蔵野市の人口推計をミスリードしているのです。

 図表4で「純移転率」をご紹介しましたが、この「純移転率」とは転入した人と転出した人の差を武蔵野市の人口で割って算出したものです。

 例えば、武蔵野市に転入してきた20歳の女性が30人、転出した20歳の女性が27人として、その差の3人が住み続けるという傾向があったと仮定します。20歳の女性の総人数が2000人とすると、純移転率は0.15%となります(3人÷2000人)。

 武蔵野市が人口推計で用いるコーホート式では、20歳の女性の純移転率は0.15として2052年まで続くとします。しかし、この算出方法は正しいでしょうか?

■図表7:年齢別性別別の純移動率(出所:武蔵野市)*再掲

 私は、転入する人と転出する人の差を「武蔵野市の人口」で割って算出された「純移転率」を用いるこの算出方法に問題があると考えています。

 なぜならば、武蔵野市から転出する人を武蔵野市の人口に対して推計していくことには問題ありませんが、武蔵野市に転入する人は武蔵野市から転入するわけではなく、「全国から転入」してくるからです。「全国の人口」を母数にしてその変動を加味して推計しなければ正確な転入者数の推計となりません

 従って、本来は、純移転率とするのではなく、
 ・転出率(分子を転出した人数、分母を武蔵野市の人口)
 ・転入率(分子を転入した人数、分母を全国の人口)
を用いて、転出する人数と転入する人数をそれぞれ算出してから全体の人口推計を行っていく必要があると考えられます。

 武蔵野市のような転入者や転出者の多い自治体で「純移転率」のみを用いた場合、この5年間の傾向のみを反映することで、人口推計を右肩上がりに増加させてしまうのです。

 これでは、武蔵野市の『将来人口推計』が不正確なものとなってしまい、未来の市政に大きな影響を及ぼしてしまいます。

~疑問点その10:転入者数の推計に当たっては、武蔵野市の人口ではなく、全国の人口数を母数にして算出しないと不正確な推計値になるのではないでしょうか?~


4. 結論~不正確でミスリードを招く現在の推定方法の抜本的な見直しを!

 令和4年9月の総務委員会で報告された人口推計の速報版は、日本や東京都の傾向と異なり、武蔵野市の人口は右肩上がりに増加し続けて2052年に16.2万人(現在+1.4万人)になるというものでした。

 しかしながら、この人口推計は、

2017年初から2021年末までの5年間の傾向が2052年までの30年間継続するという前提で推計

されており、

 ・この先30年間の住宅着工件数や金利動向などの経済前提
 ・日本全体の人口減少の傾向

が織り込まれていません。

 武蔵野市のデータだけで人口推計を行うことは明らかに不正確であり、武蔵野市の未来をミスリードするものと考えられます。

 私は、

・現在の推計方法を継続するにしても経済前提を織り込むことや転入者の母数を日本全体とした転入率を用いる

・現在の推計方法ではなく、東京都推計の武蔵野市の人口推計を何らかの方法で補正したものを人口推計とする

などのように、推計方法を抜本的に見直す必要があると考えています。

 武蔵野市の執行部には、武蔵野市の未来に危機感を持って、ミスリードすることのない将来人口を推計していただくことを切望いたします。

■図表8:日本と武蔵野市の将来人口推計(筆者作成)*再掲

武蔵野市議会議員 小林まさよし